2021-10-07

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○山村家・居間（3年前・昼）

脚本

ソファーに、美智子と霞が座っている。

美智子「ねぇ、霞さん。逆立ち妊活どうだった？」

霞「それが、幸一さんが行きたくない様子で、まだ行ってないんです」

美智子「こうちゃんは行く必要ないじゃない。一人で行ってきたら？」

霞、俯いて、小さく頷く。

美智子「それよりね、こんどは私の古い友人にね、霞さんの不妊の事相談したのよ。そうしたら、中国の何か昆虫の蛹？を粉末にして飲むといいらしいのよ。ちょっと高いらしんだけどね、何だかその成分が子宮口を開かせる効果があって・・・」

霞の目尻が痙攣する。

霞、痛みを堪えるように、こめかみを指で押さえる。

美智子の声がだんだん小さくなる。

2021-10-06

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○山村家・寝室（3年前・夜）（2）

脚本

霞「でも、せっかくお義母さんが勧めてくれたから・・・」

幸一「いや、俺、関係ないでしょ。」

霞、目を見張って声を上げて。

霞「関係ないってどういうこと？2人の子どもの事なんだよ」

幸一「だからさ、霞が妊娠しにくいのが原因なんだから、俺は関係ないでしょって事だよ」

霞「えっ・・・」

幸一「子どもだけが人生じゃないんだから、そんな必死になる事ないんだよ。2人で楽しく過ごせばいいじゃん。」

幸一、ベッドに頭まで潜り込む。

霞、呆然として布団にくるまった幸一を見つめる。

2021-10-05

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○山村家・寝室（3年前・夜）（1）

脚本

○山村家・寝室（3年前・夜）

幸一と霞がベッドの背もたれに並んでもたれ、幸一はスマホをいじっている。

霞、責めるような口調で。

霞「ねえ、どうして私が病院に行った事、お義母さんに言ったの？」

幸一、スマホを見ながら。

幸一「別にいいじゃん、本当の事なんだから」

霞、少し黙った後で。

霞「まあそれはいいか。あのね、逆立ち妊活って知ってる？お義母さんに勧められたんだけど、見学に行ってみない？」

幸一「え、何それ？嫌だよ、俺そんなの」

2021-10-04

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○山村家・居間（3年前・昼）

脚本

霞、ソファーに座り雑誌を呼んでいる。

美智子、入ってきてソファーに座る。

美智子「霞さん、こうちゃんに聞いたわよ。例の病院の事」

霞、えっ、と驚いて。

美智子「まあまあ、それはいいじゃない。それよりね、いい話を聞いたのよ。隣の長谷川さん家にね、霞さんの不妊の事相談してみたのよ。」

霞「不妊？いえ私は」

美智子「いえね、長谷川さん家のミカちゃん、なかなか子どもができなかったものだから、何ていうの、妊活？してたのよ」

霞「妊活・・・」

美智子「だから何か良い方法無いかって聞いたのよ。そしたらね、逆立ち妊活っていうのがあるんだって！これちょっと見てみてよ」

美智子、パンフレットのような紙を渡す。

美智子「こうしてね、でんぐり返ししたり、逆立ちしたりすると、子種が届きやすくなるんだって！ね、何もしないより、騙されたと思ってやった方が可能性あるでしょう？」

霞、何も言わず目を伏せる。

2021-10-01

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○山村家・寝室（3年前・夜）（2）

脚本

霞「ねぇ、今更だけど、こうちゃんも、もちろん子ども欲しいよね？」

幸一「え、いや、もちろん欲しいよ。」

霞「そう、それならいいんだけど。ところで、念の為こうちゃんも、一度検査してみてくれない？」

幸一「いやぁ、それはいいよ。」

霞「え、どうして？」

幸一「そりゃ子どもは欲しいけど、どうしてもって訳じゃないし。いわゆる不妊治療って、辛いしお金もかかるし、すごい負担だって言うじゃない。自然に任せたらいいんじゃない？」

霞「うーんでも、このまま自然に任せたら出来にくいってことなんだよ？」

幸一、笑って。

幸一「まぁ、深刻にならず、ゆっくりやっていこうよ」

霞、心配そうな顔で、うん、と。

2021-09-30

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○山村家・寝室（3年前・夜）（1）

脚本

○山村家・寝室（3年前・夜）

幸一、ベットの上で胡座をかいている。

霞、化粧台の椅子に座っている。

霞「結局、卵管が少し閉じ気味というか、その、なかなか精子が卵子まで届きにくいってことみたい」

幸一、ホッとしたような声で。

幸一「姙娠しにくいってこと？そうか」

霞、少し首を傾げる。

2021-09-29

工藤元（kudogen）　脚本『ウザい男と笑わない女』　○病院・診察室（3年前・昼）

脚本

○病院・診察室（3年前・昼）

医師がカルテとＰＣ画面を見ている。

霞、心配そうに医師の手元を見つめる。

医師「結論からすると、不妊の傾向があるという事になりますね」

霞、一段高い上ずった声で。

霞「不妊？子供ができないってことですか？」

医師「いえいえ、もちろん絶対妊娠しないという訳ではありません。ただ、普通の女性よりも妊娠しにくいのは事実です」

霞「普通の」

霞、絶句する。